部屋の中はがらんとして、冷え切っている。
かじかむ手で彼女からもらった手紙をくしゃくしゃに丸め、灰皿の上に置く。
そして、煙草の火を押し付けた。
紙は意外と簡単に燃えないもので、何度か火を押し付けてようやく燃え始めた。
手紙は開かなくても、何が書いてあったかなんて僕は分かっていて、読む気なんてさらさらなかった。
がらんとした部屋、これが手紙の内容であり、彼女の答え。

彼女ひとりがいなくなった程度で、こんなに広く感じるとは思わなかった。そして、僕は 意外と冷静であることに気づく。こういうときは、もっと取り乱すものだと思っていた。
もっと涙を流すものだと思っていた。もっと感情的になるものだと思っていた。
けれど、実際はそんなこともないようだ。
そんな気持ちだから、こういう道を選ぶことになったのだろうけど。

煙草を消して立ち上がった時、ガラス窓に僕の姿が映る。部屋の中だというのにまだ コートを着込んでいた。そういえば部屋の電気も、暖房もつけていない。はは、と乾いた声で 笑ってみる。何が冷静だ。充分動揺しているじゃないか。
手紙は燃えきらず、形を保っていた。僕は、CDプレーヤーの電源を入れる。からからとCDが 回転する音が聞こえたあと、8番目の曲が再生された。
彼女は最後にこの曲を聴いて、この部屋をあとにした。CDを聴くのは僕だけで、彼女は僕が CDを流すたび、よくそんな趣味の悪いものを聴けるわねと笑っていた。 けれど、彼女は唯一この曲だけを気に入って良く聴いていたのを知っている。
 
新しい煙草に火をつける。曲と一緒に、彼女のことを思い出していたら、涙が出てきた。
きっと、しばらくの間はこんな調子が続くだろうけど、そのうち君のことを忘れて 別の人を好きになると思う。それまでは、こうやってこの歌と一緒に君の事を思い出していたい。
そんな彼女への返答を頭の中で浮かべ、煙草の煙と一緒に吐き出した。

ああ、馬鹿なのは知ってるさ。けれど、少しくらいこうしていても良いだろう?